「び、貧乏神なんか入居させて……どうなっても知らないぞ?」

 するとその声に凌真が答えた。

「あやかしを見た目で判断してはいけませんよ。田貫さん」

 千歳は領収書を書きながら、思わず笑いそうになるのをこらえる。
 あやかしを見た目で判断していたのは、凌真だって同じくせに。

「はっ、どうなってもぼくは面倒みないからな」
「面倒みてくれなくてもけっこうです。うちはうちでやりますから」
「生意気言うな、素人のくせに! ぼくは帰るぞ!」
「あっ、田貫さん」

 帰ろうとした田貫に向かって、凌真が手を差し出した。

「コーヒー代、三百円いただきます」
「は?」
「うちは客でもない人にタダでコーヒー出すほど余裕ないんでね。でも家賃回収できないんだったら厳しいでしょうから、今回は見逃してやってもいいですけど」

 田貫はポケットから財布を取り出すと、カウンターの上に五百円玉を叩きつけた。

「釣りはいらねぇよ!」
「太っ腹だなぁ、田貫さんは」
「クソガキが! お人好しの親父とは大違いだな!」

 田貫はふんっと鼻息を荒く吐き、店を出て行く。

「ははっ、またよろしくお願いしますね、タヌキオヤジさん!」
「ちょっと、凌真さん」

 千歳は苦笑いしながら、凌真の服を引っ張った。