「それ、何か買ってきたんですか?」
「ペンキを知り合いに分けてもらったんだ。階段の手すりとか集合ポストとか、色が剥げたり錆びついたりしてるだろ。自分で塗り直せるところは直そうと思って」

 やっぱり気にしているんだ。建物が古いこと。

「あのタヌキオヤジにバカにされたままじゃ、悔しいからさ。俺は俺のやり方で、できることをやる」
「だったら私も手伝います!」

 凌真がじとっと千歳を見下ろした。

「いいよ。お前にはできないって」
「できます! 私にもやらせてください!」

 千歳が腕まくりすると、凌真はため息をついた。

「じゃあ、やるか? 一緒に」
「はい!」

 するとどこからか現れた座敷わらしが、ぴょんぴょんと千歳に飛びついてくる。

「なにそれ、楽しそう! あたしにもやらせて!」
「あの、凌真さん。わらしちゃんにもやらせてあげてください」
「は? 遊びじゃねーんだぞ!」
「でも少しでも手が多いほうが、助かりますよね」

 にこっと微笑む千歳をあきれたように見下ろしたあと、凌真はほうきやモップを持ってきて、千歳に押し付けた。

「お前らはエントランスの掃除をしろ。ペンキ塗りはそれからだ」
「はい! 了解しました!」

 千歳は凌真から受け取ったほうきをわらしに渡す。わらしははしゃぎながら掃除をはじめ、千歳もそれに加わった。

 古くて味がある建物ではあるけれど、やっぱり少しでも素敵に見せたい。
 そしてお客様に気に入ってもらいたい。

 その夜は三人でひたすらペンキ塗りをして、気づくと朝になっていた。