「千歳ちゃん、どうもぉ」
「こんばんは。こちらが501の鍵です。よろしくお願いします」
「任せといてよ」
調子のいいことを言いながら、田貫が鍵を持って店を出て行く。千歳はガラス戸の向こうで車から降りてくる、お客さんの姿を見た。
「お待たせしましたー、こちらが『メゾンいざよい』です」
田貫の声とともに、車から女の顔がひょこっと出てくる。茶色い髪の若い女性だ。しかしその首がにょろにょろと車から長く伸びてきた。
「ひっ」
思わず声を上げ、千歳は腰を抜かしそうになった。あやかしには慣れてきたつもりだったけど、これはインパクトが強すぎる。
「ろくろ首……」
首を長く伸ばしたまま、ろくろ首が車から降りてきた。そして五階建てのビルをしげしげと見上げる。
「ご案内させていただくのは、こちらの五階のお部屋になります」
田貫がへらへらしながら、ろくろ首に説明する。しかし彼女は思いっきり顔をしかめた。
「ずいぶん古くない?」
「ええ、築年数はちょっと古いですが、駅から徒歩十分で、お家賃十万となっております。五階なので見晴らしは良いですよ」
「見晴らしなんかどうでもいいわ。首を伸ばせば遠くまで見えるし」
ろくろ首の首がさらに伸びて、五階の窓に届きそうになる。
「それよりあたし、綺麗な部屋がいいんだけど」
「中をご覧になります? エレベーターがついていないのですが」
「えー、それありえないし。中見なくていいや。他の部屋は?」
「はい。次のマンションは築二年で、とても綺麗ですよ。駅からは徒歩五分、もちろんエレベーターもついております。お家賃が二万ほど高くなりますが」
「ちょっとくらい高くてもいいわ。そこ見たい」
「かしこまりました」
田貫はろくろ首を車に押し込むと、また千歳の店に戻ってきた。
「そういうわけで内見できなかったよ。古い物件はやっぱり厳しいね。鍵返すわ、ごめんねー」
まったく悪びれた様子もなく、田貫は千歳に鍵を渡し、さっさと車を走らせて行った。
「こんばんは。こちらが501の鍵です。よろしくお願いします」
「任せといてよ」
調子のいいことを言いながら、田貫が鍵を持って店を出て行く。千歳はガラス戸の向こうで車から降りてくる、お客さんの姿を見た。
「お待たせしましたー、こちらが『メゾンいざよい』です」
田貫の声とともに、車から女の顔がひょこっと出てくる。茶色い髪の若い女性だ。しかしその首がにょろにょろと車から長く伸びてきた。
「ひっ」
思わず声を上げ、千歳は腰を抜かしそうになった。あやかしには慣れてきたつもりだったけど、これはインパクトが強すぎる。
「ろくろ首……」
首を長く伸ばしたまま、ろくろ首が車から降りてきた。そして五階建てのビルをしげしげと見上げる。
「ご案内させていただくのは、こちらの五階のお部屋になります」
田貫がへらへらしながら、ろくろ首に説明する。しかし彼女は思いっきり顔をしかめた。
「ずいぶん古くない?」
「ええ、築年数はちょっと古いですが、駅から徒歩十分で、お家賃十万となっております。五階なので見晴らしは良いですよ」
「見晴らしなんかどうでもいいわ。首を伸ばせば遠くまで見えるし」
ろくろ首の首がさらに伸びて、五階の窓に届きそうになる。
「それよりあたし、綺麗な部屋がいいんだけど」
「中をご覧になります? エレベーターがついていないのですが」
「えー、それありえないし。中見なくていいや。他の部屋は?」
「はい。次のマンションは築二年で、とても綺麗ですよ。駅からは徒歩五分、もちろんエレベーターもついております。お家賃が二万ほど高くなりますが」
「ちょっとくらい高くてもいいわ。そこ見たい」
「かしこまりました」
田貫はろくろ首を車に押し込むと、また千歳の店に戻ってきた。
「そういうわけで内見できなかったよ。古い物件はやっぱり厳しいね。鍵返すわ、ごめんねー」
まったく悪びれた様子もなく、田貫は千歳に鍵を渡し、さっさと車を走らせて行った。