ひとしきり泣いたあと、千歳はぼんやりと考えた。
 怒りに任せてここまで来たけど、ここはいったいどこなのだろう。
 お酒の回った頭で考えてみても、なにもわからない。
 なんだか急に不安になって、空のビール缶の入った袋をぶら下げ立ち上がった。

 頭がくらくらして、気持ちが悪い。なんとか一歩踏み出したけど、目が回り始める。
 そんな千歳の視界に、ぼんやりとしたオレンジ色の灯りが見えた。

 薄暗い公園の向こう。ひっそりとした住宅街の中。細長いビルの一階にある店舗だけ、灯りが灯っている。
 時計を見ると真夜中近い。こんな時間に開いているのは居酒屋かなにかだろうか。

 よろよろした足取りで、千歳はその灯りを目指して歩く。
 遊具のある広場を抜け、狭い道路の向こう側にあるその店は――

「え?」

 千歳はごしごしと目をこすった。酔っているのか視界がぐらつく。だけどその店の雰囲気に見覚えがあった。

「不動産屋さん?」

 ビルの一階にある小さな店舗。ガラス張りの引き戸には、アパートやマンションの写真や間取りが載った資料がたくさん貼ってあり、入居者募集中と書かれたのぼりが店の左右に立っている。
 引き戸の上の看板には『いざよい不動産』という文字が……

「うそでしょ……なんでこんな時間に?」

 首をかしげながらも、なんとなく近寄ってしまう。その店のちょっと古臭いたたずまいが、千歳の働いていた店に似ていたから。
 店の前で立ち止まる。物件の張り紙を見ながら、「部屋を探さないとなぁ……」なんて、頭の隅の冷静な部分が考えている。

 その時、千歳は足元を見てはっとした。
 そこに小さな女の子と、一匹の猫がいたからだ。