「うそでしょ、凌真くん。それなのにこの店継いだの?」
「うちの従業員が見えるんで、問題ないです」
「あー、それで千歳ちゃんを雇ったのね。あんまりかわいいから高校生のバイトかと思っちゃったよ」

 田貫がまたにやけた顔で千歳を見た。千歳はあわてて顔をそむける。

「でもさぁ、べつに無理しなくてもいいんじゃない? あやかし物件はうちが紹介すれば十分だから。たしか凌真くん、都内で仕事してたんだよね? 無理にこんな店継がなくても、やっていけたんじゃないの?」

 こんな店って……千歳の中で何かがキレた。

「あのっ!」

 千歳は田貫の前に立った。田貫がちょっと驚いた表情で千歳を見上げる。

「ご用がないなら、帰っていただけますか! うちも暇じゃないんですから!」
「いやいやいや、暇でしょう? だってさっきから電話のひとつも鳴らないし、もちろんお客も来ないし」
「とにかく! 用がないなら帰ってください!」

 千歳が怒鳴ると、田貫は仕方なくといった感じで腰を上げた。

「そんなに言うなら帰るけどさ。そうそう、お宅の物件でボロい……いや古い物件あったよね? あれの資料くれる? たまにボロ……古い物件を好む、物好きなあやかしもいるんでね。ほら、うちの管理してる物件って、新築とか築浅しかないからさぁ、困っちゃうんだよね」

 なんなの、わざと何回もボロいボロいって……しかも新築管理してるのを、いやみったらしく自慢して……
 千歳が無視をしていたら、凌真が面倒くさそうに『メゾンいざよい』の資料を渡した。

「これでいいですか?」
「ああ、これこれ。今度お客に紹介させてもらうよ。凌真くんもわからないことがあったら、なんでもぼくに聞いてね」

 田貫はくくくっと笑いながら資料を受け取ると、「じゃあ、またねー」と言って店を出て行った。