「どうぞ……」

 千歳はコーヒーを淹れ、田貫の前に置いた。
 お客さん用のソファーでくつろいでいる田貫は、正真正銘人間の男だった。その証拠に、凌真にもちゃんと見えている。

「やぁ、ありがとう。きみ、名前は?」
「神楽坂千歳ともうします……」
「ああ、千歳ちゃんね。よろしく」

 にたっと笑う田貫に愛想笑いを返し、千歳はさっさとその場から離れる。
 田貫の前には、凌真が愛想のない顔で座っている。

「いやね、十六夜さんが亡くなって、どうしてるかなって心配になってさ、様子を見に来てあげたわけよ。でも凌真くんが後を継いだなら安心だね。十六夜さんがいつも言ってたよ。うちの凌真はああ見えて優秀だから、心配してないって」

 田貫がへらっと笑いかけ、コーヒーをずずっと飲む。凌真はふてくされた表情で、田貫から視線をそむけた。

「うちのことはご心配なく。勝手にやってますから」
「まぁまぁ、この業界は同業者同士のつながりが大事だから。これからも田貫エステートをよろしく頼むよ、凌真くん」

 田貫はそう言って、凌真の肩を馴れ馴れしく叩き、はははっと笑う。
 いったいこの人は、何をしにきたのだろう。

「そう言えばこの前、貧乏神が来なかった?」
「ああ、来ましたよ。うちの部屋を借りることになりました」
「えっ、断らなかったの、凌真くん。ダメだよ、ダメダメ。あんな辛気くさい客、テキトーに理由つけて断らなきゃ」

 千歳はムカムカしてきた。そうやって田貫は貧乏神を追い払ったのだろう。

「あの小汚い姿を見たでしょ? あんなの受け入れたら、ビンボーがうつるよ」
「俺、見てないんで」
「え?」
「俺にはあやかし見えないんです」
「は?」

 田貫が「は?」という顔のまま固まって、それからげらげらと笑い出した。