契約書にサインをして、初期費用を払った貧乏神は、家賃は後日一年分振り込むと約束して帰っていった。引っ越しは明日の夜にするという。

「マジかー! 貧乏神さまさまじゃねぇか!」

 凌真が貧乏神の払った札束をぱらぱらさせながら、嬉しそうに言う。千歳はそんな凌真の手から、お金を取り上げた。

「これは朝になったら、銀行に入金しておきます。それから、貧乏神なんか入居させるなって言ったの、どなたでしたっけ?」

 千歳がにらみつけると、凌真はふてくされた顔つきで言う。

「うっせぇな、お前は」
「貧乏神さんはこのマンションのことを褒めてくださいました。凌真さんのお父さんが、古くても大切に管理されていたからです」

 だから少しは見習って欲しい。自分の父親のことを。

「俺の父親なんかカンケーねぇよ。あの貧乏神が、ボロい家を気に入っただけだろ」

 凌真はそう言って顔をそむける。千歳は小さく息を吐く。
 そしてお金を金庫にしまったあと、用意していたエプロンをつけ、ホームセンターで買ってきた掃除用具を手に取った。