「ふむ」

 貧乏神が部屋の中を見回し、壁の一か所を手でなぞった。そこは補修がされている場所で、周りの壁とはちょっと色が違っていて見栄えがよくない。

「ここも丁寧に修理されておるな。わしは古いものを大切に使うのが好きなんじゃ」

 たしかに貧乏神の着ているコートは古くて汚れが染み込んでいるけれど、何度も洗って大切に使っているのだろう。ズボンの穴があいたらつぎはぎをして、靴も履けなくなるまで履くつもりなのかもしれない。

 見た目だけで判断するのは、やはりよくない。貧乏神を一目見た時、ちょっと引いてしまった自分に反省する。

「あの……ひとつお聞きしたいことが」

 千歳はそんな貧乏神に、おそるおそる聞いてみた。

「貧乏神さんって……人間に憑りついてその人やその家を貧乏にするって聞いたことがあるんですが……それって本当なんですか?」

 貧乏神がゆっくりと振り向いて千歳の顔を見る。千歳はちょっと戸惑った。
 失礼なことを聞いたかもしれない。でも「そんなことはない」と言って欲しかったのだ。
 いままで千歳が会ったあやかしたちは、みんないいあやかしばかりだったから。

「お嬢さんは、その話を信じておるんかの?」

 貧乏神が目を細めて千歳に言った。

「いえ、えっと……たしかにこの前までは信じていましたけど……ここで働くようになってからは、人間に悪さをするようなあやかしに会ったことがないので……貧乏神さんも人を不幸にするようなあやかしではないと思っています」

 貧乏神は黙って千歳のことを見つめている。

「ただ、貧乏神さんにはまだ会ったばかりなので……もっとたくさんお話をして、貧乏神さんのことを知りたいと思っています」

 そうだ。昔話や噂話を聞いているだけじゃ、それが本当かどうかはわからない。
 あやかしだって人間だって、ちゃんと話を聞いて付き合ってみなければ、本当のことはわからないんだ。

 すると千歳の前で、貧乏神がにっこりと微笑んだ。