「お嬢さん、わしのことを心配してくれてるのじゃな?」
「あ、えっと……」

 もしかして年寄り扱いしていると、気を悪くされただろうか。
 心配になった千歳の前で、貧乏神がにっこり笑った。

「しかしその点は心配無用じゃ。その部屋を案内してもらえるかの?」
「かしこまりました。ではさっそく」

 千歳が金庫から鍵を取り出そうとすると、その腕を凌真がつかんだ。

「お前、マジで貧乏神入居させるつもりかよ」

 千歳は凌真の顔を見て言い返す。

「はい。だって凌真さん、お化けでも幽霊でもなんでもいいって言いましたよね?」

 凌真がぐっと息をのむ。

「貧乏神が家賃払えるのか?」
「それは……大丈夫です。たぶん」
「たぶんじゃねぇよ。俺は大家だぞ。入居者を選ぶ権利はある」

 誰でもいいから連れてこいって言ったくせに……それに「貧乏神」というだけで判断するなんて、それでは『田貫エステート』と同じになってしまう。
 千歳は凌真の手を振り払った。

「お客様をお待たせしてるので。内見に行ってきます」
「ちょっ、おいっ! 社長の言うこと聞け!」

 こういうときだけ社長の権力振りかざすなんてずるい。

「貧乏神さん、お待たせしました!」

 千歳は凌真から逃げるように、貧乏神を連れて外へ出た。