「それはひどいですね。話しも聞いてくれないなんて……」
「それで田貫エステートに勧められたんじゃ。いざよい不動産に行けば、わしにあった物件があるはずじゃと」

 それはどういう意味? 田貫エステートって、この老人のことも、『いざよい不動産』のことも、バカにしてない?
 千歳はちらりと凌真を見る。凌真はむすっとしている。今の話は凌真に伝えないほうがいいだろう。絶対怒るに決まっている。

「わかりました。私が貧乏神さんにオススメの物件をご紹介いたします」
「おいっ」

 凌真が肘で千歳をつついたが、千歳はさらに無視して続けた。

「貧乏神さんは、どういったお部屋をご希望ですか?」
「古ければ古いほどよいな。環境はなるべく静かなところで」

 だったら『メゾンいざよい』がぴったりではないか。

「ご予算は?」
「特に決めてはおらん」

 十万円でも大丈夫だろうか……
 千歳は自分で作った物件資料を、貧乏神の前に差し出す。

「それではこちらの物件はいかがでしょう。当店のすぐ上のマンションなんですが、間取りは2DK、お家賃は十万円です。ただ、今空いているお部屋は四階と五階しかなくて……エレベーターがついてないのですが、大丈夫でしょうか?」

 貧乏神は杖をついている。腰も悪そうだ。本当は一階の部屋かエレベーター付きの物件を紹介したいところだが、他に勧められる物件はない。