その夜も、『いざよい不動産』は暇だった。
 千歳はカウンターの上にあるパソコンをスクロールして、次々に出てくる物件をチェックする。

 千歳が見ているのは、あやかし専門の賃貸情報サイトだ。こんなものが存在するなんて、今まで知らなかったけど、店のパソコンにブックマークされていたのですぐに気づいた。

「あやかし専門の物件って、意外とあるんですねぇ……」

 画面に表示されているのは、築年数の浅いアパートやマンション。駅近やオートロック付きのものもある。
 最近、あやかし物件は少なくなったと聞いたが、探してみると条件の良い物件が近くにもある。

 そしてそれを管理しているのは、すべて駅前にある『田貫(たぬき)エステート』という店だった。ここが凌真の言っていた、あやかし専門の不動産店なのだろう。

「わぁ、このマンションなんて、女性が喜びそう」

 うちの『メゾンいざよい』と比較されたら、絶対このマンションを選んでしまうだろう。条件がいい上、家賃がそれほど変わらないのだから。
 すると、いつの間にか千歳の後ろに立っていた凌真が、いきなりパソコンの電源を落とした。

「な、なにするんですかっ」

 あわてて振り返り、千歳が言う。

「そんなもん、見なくていい」
「でも……」
「お前はうちの物件だけ紹介してればいいんだよ」

 やっぱりこの人は無茶ぶりすぎる……
 千歳が小さくため息をついた時、店のガラス戸がカラカラと控え目な音を立てて開いた。