「えー! なんなんですか、この部屋! 足の踏み場もないじゃないですか!」

 思わず千歳が叫ぶと、凌真は頭に手をあてたまま、後ろを振り返った。

「ああ……引っ越してきた時のまま、まだ片付けてねぇんだ」

 そういえば、この前凌真が言っていた。ここには凌真の父親が一人で住んでいて、父が亡くなったあと、一人暮らしをしていた凌真が会社を辞めて戻って来たのだと。

「まだって……いったいいつになったら片付けるつもりなんですか? ちょっと失礼します!」
「あっ、おいっ……」

 千歳は凌真を押しのけ、強引に部屋に上がる。台所に置かれた大きなごみ袋の中には、カップ麺や弁当の空き箱があふれかえっていて、流しには空き缶やペットボトル、洗っていない食器が置きっぱなしだ。
 この様子を見る限り、ろくな食事をしていないのだろう。

「凌真さん、ちゃんとご飯食べてます?」
「飯くらい食ってるよ」
「ちゃんと栄養のあるもの、食べなきゃだめですよ」

 千歳はいっぱいになったごみ袋をぎゅっとしばり、新しい袋にペットボトルと空き缶を分別しながら押し込んだ。

「段ボールの中身も片付けましょう。私、手伝いますから」
「いいよ、そのうちやるから……」
「そのうちっていつですか! 絶対やらないくせに!」

 千歳が両手を腰に当ててにらむと、凌真は大きくため息をついた。

「……わかったよ。片付ければいいんだろ?」

 凌真がその場にしゃがみこみ、ガムテープをはがして段ボールを開く。

「私も手伝います」

 腕まくりをしてそばにしゃがみこむと、凌真は千歳の顔を見てまた大げさにため息をついた。