店の戸締りをしたあと、千歳は二階の部屋のドアを叩いた。千歳の隣の201号室のドアだ。
 しばらくするとドアが細く開き、むっとした凌真の顔が半分ほど見えた。

「なんだよ……」

 機嫌悪そうな凌真の声。千歳は息を整えてから、ドアの隙間から思い切って凌真に言った。

「あの……さっきはすみませんでした! 凌真さん、私のこと心配してくれたんですよね? それなのに……ごめんなさい」

 凌真が顔をしかめる。

「私……まだよく凌真さんのことよく知らなくて……でも私、もっと凌真さんのこと知りたいです。もっとお話したいです。だからここ開けてくれませんか?」
「は?」
「……ダメですか?」

 凌真は顔をしかめたまま千歳を見て、あきれたようにつぶやく。

「お前……俺より先に謝るなよ」
「え?」
「こっちだって悪かったと思ってるんだからさ。先に謝られると、俺が謝れないじゃねぇか」

 きょとんとした千歳の前で、ドアがすっと開かれる。千歳の目の前に、千歳よりずっと背の高い凌真の姿が見える。だけどその顔には、小さかった頃の面影がなんとなく残っているのがわかった。

「それからな、こんなふうに無防備に男の部屋に来るのはやめろ。俺がお前を部屋に入れて、襲ってきたらどうすんだよ?」
「え、襲うんですか? 私のこと」

 千歳が聞くと、凌真は頭をくしゃくしゃとかいた。

「襲うか! 誰がお前みたいなガキっぽいやつ!」
「そうだと思いました」

 千歳はにこっと笑ったあと、凌真の向こうに見える部屋を見る。千歳の部屋と同じ間取りだが、段ボール箱がいっぱい積まれていて、とにかく散らかっていた。