「あ……」

 そのページから、一枚の紙がはらりと落ちる。

「これは……」

 千歳が拾い上げたのは、古い写真だった。
 若い男女と小さい男の子が、『いざよい不動産』の前に立っている。

「この男の子って……凌真さん?」

 そうだ。この男の子が凌真で、若い男女は彼の父親と母親。
 父はにこやかに息子の肩を抱いていて、息子は母親と手をつないでいる。幸せそうに微笑む母親の指にはシルバーのリングが光り、息子も笑顔でこっちを見ている。

 きっとこれは、凌真の父親の大事な写真なのだろう。毎日日誌をつけていたなら、この写真も毎日見ていたのかもしれない。そして最後のページを書いたあと、おそらく彼は……

 凌真は知っているのだろうか。この写真がここにあることを。いや、きっと知らないだろう。
 千歳は写真をそっとノートに挟み、元あった場所に戻した。