その日、朝になっても凌真は店に戻ってこなかった。
 猫又とわらしは夜明けと同時に、いなくなった。あやかしは夜に活動するから、朝になると自分の部屋に閉じこもってしまうようだ。

 千歳はながめていたファイルを戸棚にしまう。わらしと猫又の契約書を確認したのだ。ふたりは四年ほど前に、このマンションを契約したことになっていた。

「あれ?」

 戸棚を閉めようとした千歳は、ファイルとファイルの間に一冊のノートが挟まれていることに気がついた。この中にあったものは全部確認したつもりだったのに、まだ読んでいない資料があったとは。
 千歳はそのノートを引き出してみた。

「業務日誌?」

 そう表紙に書かれたそのノートの中には、丁寧な文字がぎっしり書かれてあった。

 その日来たお客さんとのやり取りはもちろん、管理している物件の特徴、その大家さんとの会話、入居者さんが困っていること……どれも細かく書かれていて、少し読んだだけでも、お客さんや入居者さんやオーナーさん、そして管理している物件まで、全部を大事にしていることがわかる。

 もちろんこれを書いたのは、凌真の父親だろう。彼の仕事に対する熱心さが伝わってくる。

 千歳は夢中でページをめくった。毎日欠かさず続けられていた日誌は、最後のほうになるにつれ文字数が少なくなってくる。そして最後のページは、今から二か月ほど前の日付になっていた。