「ただいま戻りました」

 わらしと猫又を連れて店に戻ると、凌真が不機嫌そうな顔で千歳を見た。

「遅い! どこ行ってたんだよ」

 凌真は千歳が店にいると「営業してこい」と追い出すくせに、外から戻ると「遅い」と怒る。本当に勝手な人だ。

「作ったチラシを貼って来たんです。あやかしのいそうな場所に」
「それだけで何時間かかってんだよ。まったくとろいやつだな」

 たしかにちょっぴりサボっていたけど、どうせ店に戻ってもやることないし。

「でもきっと、凌真さんのお父さんも、こうやっていたんだと思います」

 凌真がかすかに肩を震わせて、千歳を見る。

「こうやって町を歩いて、あやかしと出会って、お部屋を紹介していたんだと思います」

 一人ぼっちだった、わらしや猫又を見つけてあげたように。

「親父のことはどうでもいいんだよ」

 凌真はふんっと鼻を鳴らすと、カウンターの上に置いてあるスマホを指さした。

「それよりお前、スマホ忘れてただろ。さっき鳴ってたぞ?」
「あっ」

 そういえば忘れていた。手を伸ばしてスマホを見ると、この前まで働いていた不動産店の社長から着信が入っている。千歳はあわてて社長に電話をかけた。