薄暗い公園のベンチに、千歳は座敷わらしと並んで座った。途中の自動販売機で買った缶コーヒーとジュースを、二人で開ける。千歳の足元には、猫又が丸まって眠っていた。

「わらしちゃんのご主人様って、どんな人だったの?」

 千歳はわらしの話を聞いてみたくなり、公園に誘った。
 もっとこのあやかしのことを知りたくなったのだ。もっと彼女と仲良くなるために。

 公園の中は今夜も静まり返っている。緑色になった桜の木が、時々夜風に吹かれてざわっと揺れる。道路の向こう側には、『いざよい不動産』のオレンジ色の灯りが、ぼんやりと灯っている。

「ご主人様はね……」

 千歳の隣にちょこんと座ったわらしが話し始めた。

「生まれた時からずっと、あたしと一緒だったんだよ。大きな古い家に住んでいてね。大人はみんな忙しくて出かけてしまうことが多かったから、あたしはいつもご主人様と二人で遊んでたんだ」

 ご主人様というのは人間の子どもだろうか。座敷わらしというのは古い家に憑いていて、その家の子どもと仲良くなることもあると聞いたことがある。
 わらしは千歳が買ってあげたジュースをごくごくと飲み、懐かしそうに話を続ける。

「何年も何十年も一緒に暮らした。楽しかったなぁ……あたしはこのままずっと、ご主人といられるのかと思ってたけど……そうじゃなかった」

 千歳は黙ってわらしの横顔を見る。わらしは少し寂しそうに頬をゆるめる。

「ある日、ご主人は眠ったまま目を覚まさなくなった。そしてその家からいなくなっちゃったんだ。あたしは一人ぼっちになってしまった」

 あやかしは人間よりもずっとずっと長く生きるというから……きっとそのご主人様は亡くなってしまったのだろう。

「だからあたしは家を出たの。ご主人のいない家には、もういても仕方なかったから」

 生ぬるい風が吹き、わらしの切りそろえられた前髪が揺れる。千歳はあいている方の手で、わらしの手をそっと握りしめた。