「どうですか? これ。作ってみたんです」

 千歳は『メゾンいざよい』の外観や室内を写真に撮った。昼間と夜間の二種類だ。できるだけ魅力的に写るよう工夫して。それに間取り図やおすすめポイントを入れて、完璧な物件資料を作ったのだ。

「これをお店の入口に貼りましょう。たくさん印刷して、どこかに置いてもらえればいいんですけど」
「へぇ……よくできてるじゃん」

 凌真が千歳の手から資料を受け取る。
 褒めてもらえた。ちょっと嬉しい。

「あ、これ、河童のやつに配ってもらえば? 営業マンなんだろ?」
「また人任せですか? 自分で動いたらどうなんです?」

 ちょっと言い返したら、凌真はぶすっと顔をしかめ、資料を持って立ち上がった。そしてそれを店のガラス戸に、貼りつけようとしている。
 この人が働くところ、初めて見た。いつも椅子に座ってスマホをいじっているか、コーヒーを飲んでいるだけなのに。

「このへんでいいか?」
「あ、はい。いいと思います」

 店の外から一番目立つ場所に、凌真が千歳の作った資料を貼る。

「もっと大きいポスターみたいなほうがよかったですかね」
「たしかに。そのほうが目立つな」
「じゃあもう一度作ってみます!」

 なんだかやる気が出てきた。
 家賃収入ばかり当てにしている凌真のためではなく、部屋探しをしているお客様のために、もっともっとこのマンションの良いところをおすすめしたい。

 千歳はそう強く思ったのだ。