そういえばあのしょうもない息子は、ろくに仕事もしないくせに、新車を買ったり海外旅行に行ったり遊びまわっていた。社長も奥さんも息子に甘いから、好き勝手やらせてこんなことになってしまったのかもしれない。
しばらく店の前で呆然としたあと、千歳は踵を返した。
とりあえず、家に帰ろう。
今日は誠也が仕事休みで家にいるから、相談しよう。そしてこれからどうすればいいのか、落ち着いて考えよう。
誠也は千歳の大学時代からの恋人だ。千歳の就職先が誠也のアパートに近かったこともあり、卒業してから一緒に暮らしている。
同い年の誠也は、積極的で自信にあふれていて、控えめで自信の持てない千歳とは正反対の性格だった。
しかし声をかけてきたのは誠也のほうだ。常に男女の仲間に囲まれていた誠也が、千歳のどこを気に入ったのか不思議だったが、今ではなんとなくわかる。
誠也は自分の彼女より優位に立ち、満足感を味わいたいのだ。だから誠也にとって自分より「下」な千歳は、うってつけの彼女なのだろう。
それでも千歳は、誠也のそばにいたいと思っていた。
自分が誠也よりも劣っていることは自覚していたし、千歳が頼れば、誠也は気分を良くしてやさしくしてくれるからだ。
重い足取りで、店から徒歩十分の二階建てアパートへ向かう。
誠也に会ったらとりあえず慰めてもらおうと、最後の力を振り絞り階段をのぼって、二階の一番奥のドアを開けた。
しかしそこで千歳は気がついた。玄関にある、自分の物ではない女物の靴に。そして次の瞬間、千歳の目に映ったものは――
「ち……千歳? なんで……お前、仕事じゃ……」
下着姿の誠也の声を最後まで聞く前に、千歳はドアを力任せにバタンと閉めた。
しばらく店の前で呆然としたあと、千歳は踵を返した。
とりあえず、家に帰ろう。
今日は誠也が仕事休みで家にいるから、相談しよう。そしてこれからどうすればいいのか、落ち着いて考えよう。
誠也は千歳の大学時代からの恋人だ。千歳の就職先が誠也のアパートに近かったこともあり、卒業してから一緒に暮らしている。
同い年の誠也は、積極的で自信にあふれていて、控えめで自信の持てない千歳とは正反対の性格だった。
しかし声をかけてきたのは誠也のほうだ。常に男女の仲間に囲まれていた誠也が、千歳のどこを気に入ったのか不思議だったが、今ではなんとなくわかる。
誠也は自分の彼女より優位に立ち、満足感を味わいたいのだ。だから誠也にとって自分より「下」な千歳は、うってつけの彼女なのだろう。
それでも千歳は、誠也のそばにいたいと思っていた。
自分が誠也よりも劣っていることは自覚していたし、千歳が頼れば、誠也は気分を良くしてやさしくしてくれるからだ。
重い足取りで、店から徒歩十分の二階建てアパートへ向かう。
誠也に会ったらとりあえず慰めてもらおうと、最後の力を振り絞り階段をのぼって、二階の一番奥のドアを開けた。
しかしそこで千歳は気がついた。玄関にある、自分の物ではない女物の靴に。そして次の瞬間、千歳の目に映ったものは――
「ち……千歳? なんで……お前、仕事じゃ……」
下着姿の誠也の声を最後まで聞く前に、千歳はドアを力任せにバタンと閉めた。



