「こんばんは」
「あっ、い、いらっしゃいませ!」

 千歳があわてて立ち上がる。凌真は眠そうな目で千歳と、開いたガラス戸のほうを見た。凌真の目には、おそらく何も見えないだろうけど。

「ぼく、部屋を探しててね」
「あ、はいっ! どうぞこちらへおかけください!」

 千歳はカウンターの前にある椅子をすすめる。小さくうなずいて腰掛けたのは、スーツ姿の……河童だった。
 千歳はどきどきしながら、その姿を見る。あまりじろじろ見ては失礼だと思い、ちらちらと観察する。

 河童――それは絵本や物語に描かれている姿とまったく同じで、ちょっと感動した。
 緑色の顔に黄色いくちばし、頭にはお皿がのっている。ただ背中の甲羅は見えなくて、人間と全く同じ黒っぽいスーツ姿だ。水色で水玉模様の、オシャレなネクタイもつけている。

 そういえば座敷わらしの女の子も、今どきの服を着ていた。座敷わらしと言えば、着物姿のイメージなのに。あやかしが人間社会に紛れ込んでいるって、こういうことなのかもしれない。