「凌真さんも」

 座敷わらしを抱きしめたあと、千歳は立ち上がって凌真に言った。

「私のために、ありがとうございました」

 凌真は「ふんっ」と顔をそむける。

「私のこと、必要だって言ってもらえて、嬉しかったです」
「まぁ、ほんとのことだからな。お前がいなかったら、あやかしたちに部屋を紹介できない。そしたら俺が家賃をもらえず、ブラック企業に逆戻り。それだけは勘弁だからな」

 ふてくされたように椅子に腰かけた凌真を見て、千歳はくすっと微笑んだ。

「だからさっさとお客を連れてこい! そのへん探せば、家のない妖怪くらいうろうろしてるだろ!」
「はい」

 千歳はもう一度しゃがみ込み、座敷わらしにそっと耳打ちした。

「公園に遊びに行っちゃおうか」
「うん! あそぼ!」
「あなたも来る? 猫又さん」

 目を開けた猫又がのっそりと起き上がり、伸びをしてから千歳のそばに近寄ってくる。その動きは、昔実家で飼っていた猫のミィと変わらない。ただ尻尾が二本で、大きさはミィの二倍以上あるけれど。

「じゃあちょっと営業してきます!」

 千歳の声に、凌真が驚いた顔をする。まさか本当に、千歳が真夜中の町に出て行くとは思わなかったのだろう。

「ああ……気をつけていけよ」
「大丈夫です。ボディガードがついてくれてますから」

 にこっと笑って下を向くと、座敷わらしが千歳の手をぎゅっと握り、猫又が「にゃお」と低く鳴いた。

「それでは。お部屋探ししているお客様を見つけたら、私が『メゾンいざよい』をご案内しますね」
「お、おう、頼む」

 背中を向け、外へ出ようとした千歳に凌真が言う。

「案外、肝が据わってんだな、あんた」

 千歳本人も、実はそう思っていた。
 あやかし相手の仕事も、けっこうおもしろいかもしれない、と。