「ちとせ。これで満足?」

 にこにこしながら座敷わらしが言う。千歳は座敷わらしの前に、静かにしゃがみ込んだ。

「ありがとう……でも……」
「でもなあに?」

 きょとんとした顔で、座敷わらしが首をかしげる。そのそばに猫又も寄ってきて、千歳を見上げる。千歳はそっと、猫又の頭をなでながらつぶやいた。

「でもね……ちょっとかわいそうだったかなって……」
「は? あんなやつのどこがかわいそうなんだよ。そんな甘っちょろいこと言ってるから、お前舐められるんだぞ?」

 凌真が横から口を出す。

「うん、そうだね。そうなんだけど……」

 千歳は座敷わらしと猫又の前で小さく笑う。

「もう私のために、こんなことしなくて大丈夫だから。ね?」

 座敷わらしが千歳のために、誠也をこらしめてくれたのはわかる。猫又が誠也の顔を引っかいたのも、千歳のためにしてくれたこと。
 それでもやっぱり……誰かを傷つけてしまうのは心が痛む。
 恨んで傷つけて、今度は恨まれて……そんなループはどこかで断ち切らなければダメなんだ。

 浮かない顔の千歳の前で、座敷わらしがうなずいた。

「わかった、もうしない。でもちとせには笑って欲しかったんだ。一人ぼっちで寂しかったあたしと、公園で遊んでくれたから」

 千歳はもう一度「ありがとう」と言って、座敷わらしを抱きしめた。
 ほんのりあたたかくて、ほんのりつめたい。人間のようで人間でないその体。千歳はそんな座敷わらしに向かってつぶやく。

「また一緒に遊ぼうね」

 座敷わらしが千歳の胸の中で「うん!」と答える。猫又は「にゃあ」と鳴くと、安心したように店の隅に移動し、丸くなって目を閉じてしまった。