「あんた部屋探してるんだよな?」
「は?」
「いい部屋紹介してやってもいいけど? この上のマンション、日当たり良好の2DK。家賃三十万払ってくれるなら」
「三十万? こんなボロいマンションのくせに高すぎでしょ。いくらなんでもぼったくりだ」
「だったら帰れ。営業妨害だから」
思いっきり顔をしかめた誠也を、凌真が「しっしっ」と手で払いながら言う。
「ついでに二度と、うちの従業員の悪口を言わないでくれ。こんな女でも、うちの店には必要不可欠なんだから」
必要不可欠――その言葉に、千歳の胸がどきんと動いた。誠也からはずっと、何の価値もない人間だと言われ続けてきたから。
「は? この女が必要不可欠? まぁ今にもつぶれそうなこんな店じゃ、他に働きたいやつなんかいないだろうからな」
ははっと笑った誠也の顔に、突然猫又が襲いかかった。「シャアっ」と声を出し、鋭い爪を立てて。
「うわぁ! なんだっ……」
誠也が目の前を、めちゃくちゃに手で払う。きっと誠也に猫又の姿は見えていない。ただ恐ろしい気配だけは感じるのかもしれない。
「やめろっ! やめてくれっ!」
猫又は誠也の顔を爪で引っかいた。額から頬にかけて数本の筋が入り、うっすらと赤く染まっていく。
「もうやめて!」
思わず千歳が声を上げる。すると猫又はすっと床に降り、そろそろと店の隅に移動し、二本の尻尾を舐め始めた。
「な、なんなんだよ、この店は。気持ち悪い!」
誠也の顔には猫の爪の引っかき傷がついている。
「だったら二度と来るな! うちの従業員にも近づくんじゃねぇ!」
凌真の声とともに、誠也が「ちっ」と舌打ちをして店の引き戸を開ける。
「こっちこそこんな店、二度と近づくか!」
そう吐き捨てた背中を、座敷わらしがどんっと押し、誠也は店の外にみっともなく転がった。
「ははっ、ざまあみろだ」
凌真がおかしそうに笑っている。だけど千歳は複雑だった。
「は?」
「いい部屋紹介してやってもいいけど? この上のマンション、日当たり良好の2DK。家賃三十万払ってくれるなら」
「三十万? こんなボロいマンションのくせに高すぎでしょ。いくらなんでもぼったくりだ」
「だったら帰れ。営業妨害だから」
思いっきり顔をしかめた誠也を、凌真が「しっしっ」と手で払いながら言う。
「ついでに二度と、うちの従業員の悪口を言わないでくれ。こんな女でも、うちの店には必要不可欠なんだから」
必要不可欠――その言葉に、千歳の胸がどきんと動いた。誠也からはずっと、何の価値もない人間だと言われ続けてきたから。
「は? この女が必要不可欠? まぁ今にもつぶれそうなこんな店じゃ、他に働きたいやつなんかいないだろうからな」
ははっと笑った誠也の顔に、突然猫又が襲いかかった。「シャアっ」と声を出し、鋭い爪を立てて。
「うわぁ! なんだっ……」
誠也が目の前を、めちゃくちゃに手で払う。きっと誠也に猫又の姿は見えていない。ただ恐ろしい気配だけは感じるのかもしれない。
「やめろっ! やめてくれっ!」
猫又は誠也の顔を爪で引っかいた。額から頬にかけて数本の筋が入り、うっすらと赤く染まっていく。
「もうやめて!」
思わず千歳が声を上げる。すると猫又はすっと床に降り、そろそろと店の隅に移動し、二本の尻尾を舐め始めた。
「な、なんなんだよ、この店は。気持ち悪い!」
誠也の顔には猫の爪の引っかき傷がついている。
「だったら二度と来るな! うちの従業員にも近づくんじゃねぇ!」
凌真の声とともに、誠也が「ちっ」と舌打ちをして店の引き戸を開ける。
「こっちこそこんな店、二度と近づくか!」
そう吐き捨てた背中を、座敷わらしがどんっと押し、誠也は店の外にみっともなく転がった。
「ははっ、ざまあみろだ」
凌真がおかしそうに笑っている。だけど千歳は複雑だった。



