「こんなところにいたのか……」

 誠也の声に体が震える。まさかここまで千歳のことを追いかけてきたのだろうか。

「どうしてここが……」

 なんとか声を出した千歳の前で、誠也が顔をしかめた。それから、生まれつきのほんのり茶色い髪をくしゃくしゃとかきまぜ、困ったように言う。

「俺にもわかんないんだよ。なんだか体が勝手に動いて、こんなところまで来ちゃって」

 その時千歳は、はっと息をのんだ。誠也の後ろから小さい女の子がひょこっと顔を出し、千歳に笑いかけたのだ。

「座敷わらしっ……」

 つい上げてしまった声に、凌真が興味深そうにこっちを向く。
 座敷わらしは誠也の体を後ろから突き飛ばし、カウンターの上に手をつかせた。

「な、なんかヘンなんだよ、俺。さっき千歳と別れてから」
「え……」
「昨日の女がうちに来て『やっぱり彼女いるんじゃない!』っていきなり殴りかかってくるし」

 誠也は浮気相手の女に、千歳のことを隠していたのだ。千歳という彼女がいるのを知りながら、女が無理やり迫ってきたなど嘘だったのだ。

「そしたら大家さんと警察が飛んできて、迷惑行為するなら出て行けってあのアパート追い出されて」

 誠也が泣きそうな顔で訴える。

「おまけに突然会社から『お前はクビだ』って電話がきて。もうなにがなんだかわかんないよ。俺、なにかに祟られてるんじゃないのか?」

 誠也の後ろから座敷わらしが顔を出し、またにこっと笑う。

『こらしめてあげようか?』

 さっきこの子が言った言葉が頭に浮かぶ。
 もしかしてこの子が本当に、誠也をこらしめたということだろうか?