真夜中に営業しているあやかし専門の不動産店、『いざよい不動産』。おすすめ物件はただひとつ。凌真がオーナーを引き継いだ、この店の上のマンション『メゾンいざよい』。四部屋が空き部屋となっているこのマンションを、なんとしても満室にするのが、千歳の任された仕事だ。

 昔はこのあたりにはもっと、あやかし専門の物件があったらしい。しかし今ではあやかしより人間の人口のほうが上回り、あやかしの住む場所は少なくなってしまったのだという。

 『いざよい不動産』も、以前はたくさんあやかし物件を抱えていたそうだ。店のガラス戸に貼られている物件がそれなのだが、今ではどこも人間専用になってしまい、管理から外れてしまった。
 だからあの張り紙もはがさなければいけないのだけど、それでは不動産屋ぽくないからと、凌真がそのままにしている。

 千歳は二つある事務机の一つに向かってため息をついた。目の前にあるのは『メゾンいざよい』のファイル。猫又と座敷わらしが住んでいる部屋と、千歳が住んでいる部屋の契約書が挟まれている。

 それを見ると、猫又たちの部屋は家賃が十万するらしい。空き部屋の家賃も十万だというが、この古さでこの賃料はちょっと高い気がする。しかも相手はわけのわからないあやかしだ。それともあやかしと人間では、お金の価値観が違うのだろうか。