「……おはようございます」

 深夜0時前、階段を下りて一階にある店に行くと、今夜も灯りが灯っていた。
 本当に真夜中に営業しているんだ。驚きを通り越してあきれてしまう。

「おう。ちゃんと逃げずに来たな」

 おそるおそる店に入る千歳の前で、椅子にふんぞり返って座っている凌真がにっと笑った。

 昼間、千歳は誠也のアパートから帰ったあと、今までの疲れがどっと出たのか、夜までぐっすり眠ってしまった。誠也のことや謎の女の子のことなど、考えなければいけないことはたくさんあったのに。
 気がついたら凌真に言われた出勤時間が迫っていて、千歳はあわてて階段を駆け下りてきたのだ。

「逃げたりしません。他に行くところないですし」

 千歳が深く息を吐くと、凌真はおかしそうに笑った。

「そんなに笑わないでください」

 そう言いながら凌真を見ると、その足元に昨日の三毛猫が丸くなっている。

「その猫ちゃん……凌真さんの猫だったんですね」
「は?」

 凌真が笑うのをやめて、千歳を見た。

「その三毛猫です。昨日の夜、お店の前で会ったので。女の子と一緒に」

 千歳は凌真の足元を指さす。猫は退屈そうにあくびをする。凌真は自分の足元を見下ろし、顔をしかめた。