悔しい、悔しい、悔しい……
 大きな荷物を肩にかけ、駅に向かって走る。
 だけど何も言い返せない自分が、情けなくて嫌になる。

 たしかに千歳には得意なことなんてないし、いつも誠也に頼っていた。
 就職先も住んでいた部屋も、全部人任せ。だから店がつぶれても、浮気されても、何も文句が言えなかったのだ。

「くやしい……」

 涙で景色がぼやけて、立ち止まる。
 泣きたくなんかないのに。泣いたらあいつの思うつぼなのに。
 千歳はこぶしを握って、目元をごしごしとこする。千歳の横を、駅へと向かう人が追い越していく。

「こらしめてあげようか?」

 その時突然、声が聞こえた。千歳ははっと目を開く。

「あたしがあいつを、こらしめてあげようか?」

 声は下のほうから聞こえてきた。足元を見下ろすと、そこに昨日の女の子がいた。
 あれは……夢ではなかったのだろうか。

「あなた……お店の前にいた……」

 女の子は昨日と同じ、桜色のパーカーにベージュのオーバーオールを着て、千歳の顔を見上げている。そしてにっこり微笑むと、またこう言った。