深夜にやっている不動産店なんて、どう考えても怪しすぎる。
だいたい家賃がタダっていうのも怪しかったし、簡単に仕事をくれたのも怪しかった。
だけどいまさら誠也のもとへは帰れないし、戻る実家もない。
悶々とそんなことを頭の中で考えながら、千歳は電車に揺られていた。とりあえず誠也のアパートへ戻り、身の回りの荷物を取ってこようと思ったのだ。
昨日はやけになって電車に飛び乗ってしまったけれど、住んでいた町から一時間も離れた場所まで来ていた。
「はぁ……」
駅を降り、アパートへ歩きながら大きなため息をつく。
この時間、誠也は仕事に出かけているはずだからかち合う心配はない。持てるだけの荷物を持って、さっさと立ち去ろう。
途中、勤めていた店の前で立ち止まる。やはりシャッターが閉まっていて、張り紙が風にひらひらと揺れているだけ。
昨日から何度も社長と奥さんに電話したけれど、連絡はつかない。
本当にどこかに逃げてしまったのだろうか。なにか危険な目にあっているのではないだろうか。心配になる。
社長も奥さんも悪い人ではないのだ。
就活に失敗し続けて困っていた千歳が、バイト先の喫茶店でその話をしたら、常連さんだった社長が「だったらうちで働かないか?」と声をかけてくれた。
社長のお店は小さかったけど、こんなことになるまでちゃんとお給料もボーナスももらっていたし、残業もなく、のんびりとした千歳にはちょうど良い職場だった。
「はぁ……」
再び大きなため息をつき、誠也のアパートへ向かう。
誠也とあの部屋で暮らし始めて一年。それは新婚生活の真似事のようで、ずっと誰かのぬくもりを求めていた千歳にとってはあたたかい空間で……
だからこそ、誠也の浮気に気づかないふりをしてきた。このささやかな幸せを、壊したくないと思っていたからだ。
だけど――昨日のシーンが目に浮かび、鍵を差し込もうとした手が震える。
千歳が大事にしてきたこの部屋の中でだけは、あんなことをして欲しくなかったのに……
だいたい家賃がタダっていうのも怪しかったし、簡単に仕事をくれたのも怪しかった。
だけどいまさら誠也のもとへは帰れないし、戻る実家もない。
悶々とそんなことを頭の中で考えながら、千歳は電車に揺られていた。とりあえず誠也のアパートへ戻り、身の回りの荷物を取ってこようと思ったのだ。
昨日はやけになって電車に飛び乗ってしまったけれど、住んでいた町から一時間も離れた場所まで来ていた。
「はぁ……」
駅を降り、アパートへ歩きながら大きなため息をつく。
この時間、誠也は仕事に出かけているはずだからかち合う心配はない。持てるだけの荷物を持って、さっさと立ち去ろう。
途中、勤めていた店の前で立ち止まる。やはりシャッターが閉まっていて、張り紙が風にひらひらと揺れているだけ。
昨日から何度も社長と奥さんに電話したけれど、連絡はつかない。
本当にどこかに逃げてしまったのだろうか。なにか危険な目にあっているのではないだろうか。心配になる。
社長も奥さんも悪い人ではないのだ。
就活に失敗し続けて困っていた千歳が、バイト先の喫茶店でその話をしたら、常連さんだった社長が「だったらうちで働かないか?」と声をかけてくれた。
社長のお店は小さかったけど、こんなことになるまでちゃんとお給料もボーナスももらっていたし、残業もなく、のんびりとした千歳にはちょうど良い職場だった。
「はぁ……」
再び大きなため息をつき、誠也のアパートへ向かう。
誠也とあの部屋で暮らし始めて一年。それは新婚生活の真似事のようで、ずっと誰かのぬくもりを求めていた千歳にとってはあたたかい空間で……
だからこそ、誠也の浮気に気づかないふりをしてきた。このささやかな幸せを、壊したくないと思っていたからだ。
だけど――昨日のシーンが目に浮かび、鍵を差し込もうとした手が震える。
千歳が大事にしてきたこの部屋の中でだけは、あんなことをして欲しくなかったのに……