凌真のあとについて、千歳は薄暗い階段をのぼった。
 五階建ての古いビル。白い壁は黒ずんでいて、エレベーターはついていない。どうやらワンフロアに、二つの部屋が並んでいるようだ。

「ここがあんたの部屋」

 凌真が鍵を開け、ドアを開く。玄関から中をのぞくと、広いダイニングキッチンがまず目に入った。その奥に和室が二部屋並んでいる。
 たしかに日当たりは良いようで、とても明るい。

「入ってみなよ」
「お、おじゃまします」

 おずおずと靴を脱いで部屋に上がる。床も壁も新しいとは言えないけれど、綺麗にクリーニングはされている。
 しかもキッチンには冷蔵庫や電子レンジ、脱衣所には洗濯機、奥の部屋にはテレビや本棚まで置いてある。

「すごい……」
「窓の外も見てみな」

 凌真がカラリと窓を開け、千歳は外を見た。

「わぁ……」

 細い道路の向こうに、昨日やけ酒を飲んだ『さくら公園』の満開の桜が見える。
 部屋からお花見ができるなんて……なかなか贅沢ではないか。
 誠也のアパートは新築で綺麗だったが、日当たりも景色もよくなかった。

「ほんとにここ……家賃無料でいいんですか?」
「いいって言ってるだろ」

 千歳はちょっと首をかしげて、背の高い凌真を見上げる。すると窓の外をながめている凌真の横顔が、すぐ近くに見えた。
 風に前髪を揺らすその顔が、ちょっとカッコよく思えてしまい、千歳はあわてて視線をはずす。