「あっ、狐さんからメールだ」
「お前……あいつに連絡先教えたのか?」
「はい。寂しくなったらメールしてねって言ってあるんです」

 千歳はメールと添付されている画像を開いた。

「狐さん、気に入ってくれたみたいです。あの場所」

 そう言って千歳は、スマホの画面を凌真に見せる。
 そこには梅雨が明けたばかりの青々と茂った緑の山と、真っ青な空が映っていた。

「ふん、仕事もしないで、リゾート気分か。あやかしなんて、いい気なもんだな」
「冬が来るまでにおうちを作って欲しいそうです。凌真さんに」

 千歳がメールを読みながら言うと、凌真は口につけたお茶を噴き出しそうになった。

「は? 俺が? 冗談じゃねぇっての」
「お金はいくらでも払うそうです。何百年も生きてるから、お金はたくさん持ってるみたい」
「木の葉の金じゃねぇだろうな」

 凌真が千歳から顔をそむけて、パソコンを動かしはじめる。

「雪が降っても、あたたかいおうちがいいそうです」
「一億くれるなら作ってやる」

 千歳は凌真の横顔を見て、またくすっと笑う。

「そう返信しておきますね」

 凌真は何も言わなかった。だけどきっと想像しているはず。
 あの深い森の中。一人で生きているあやかし狐の暮らす、あたたかい家……

「あれ」

 メールを返信した千歳は、カウンターの上を見て気がついた。

「これは……」

 いつの間にかそこに、四葉のクローバーが置かれている。

 千歳はそれを手に取った。どこか懐かしい匂い。山の中をのびのびと駆け回っている、狐の姿が目に浮かぶ。

「それより『メゾンいざよい』はどうなった。さっさと満室にしてくれよ」

 隣から凌真の声が聞こえてきた。千歳はそっと四葉のクローバーを手で包み、ふわりと微笑む。

「はい。がんばります!」

 千歳が返事をした時、店の引き戸がカラリと開いた。
 久しぶりのお客様だ。千歳はカウンターの前に立ち、笑顔で声を上げる。

「いらっしゃいませ! どんなお部屋をお探しですか?」