凌真は最近、『山嵐工務店』から設計の仕事を請け負うようになった。
 毎晩この店のパソコンに向かって、仕事をしている。昼間は現場の山嵐と打ち合わせをしたり、お客様と会ったりしているから、いつ眠っているのかと心配になるけれど。

「あ、これ、凌真さんが担当してるおうちですか?」

 パソコンの画面には戸建て住宅の内観パースが映っている。千歳はそっと近寄って、凌真の後ろからパソコンをのぞきこむ。

「ああ、山さんにデザインから設計まで全部任されてて」
「すごい。明るくて広々してて、素敵なお部屋ですね」

 ナチュラルな木のぬくもりに包まれた部屋は、天井が吹き抜けになっていて、リビングにある階段で二階へつながっている。

「小さな子どもが二人と猫がいる家族でさ。とにかくみんなで仲良く暮らせる家が希望だっていうから……」

 凌真が画面を指さして言う。

「このリビング、キッチンからはもちろん、二階の子ども部屋からも見えるようになってるんだ。これならどこにいても、家族の気配が感じられるだろ? あとこの高い位置に窓をたくさんつけて、家の中でも太陽の日差しをたっぷり浴びれるようにする。あ、このキャットウォークは山さんの提案で……」

 こっちを向いた凌真がそこで言葉を切る。にっこり微笑む千歳と目が合ったからだ。

「おうちの話をしている時の凌真さん、やっぱり生き生きしてますよね?」
「うるせぇな、お前は」

 むすっと顔をしかめた凌真の前で、千歳が言う。

「きっとあたたかいおうちが作れますよ。凌真さんなら」

 凌真は黙って千歳を見た。

「……そうかな?」
「そうですよ」

 そっと手を動かして、凌真は胸のリングをにぎりしめた。

「そうだな」

 千歳は凌真の向こう側にある本棚の隅を見る。本が並んだ一番端に、一枚の写真が貼られてある。
 あの幸せそうな、古い家族写真だ。凌真が「なくすと困るから」と言って、こっそり本棚の隅に貼り付けたのだ。

 静かに微笑んだ千歳のポケットで、スマホが音を立てる。