「ちとせ。ちとせ。大丈夫?」

 千歳が突っ伏していたカウンターから頭を起こすと、目の前でひょこっと顔を出している座敷わらしが見えた。

「わらしちゃん……それに……」

 カウンターの上には猫又が座っていて、千歳を見下ろすように口を開く。

「やっと起きたか、千歳」

 そしてわらしの後ろには、河童と貧乏神、雪女の姿も見える。

「みなさん……来てくれたんですか?」
「まったく、あなたにはあきれるわ」

 雪女がため息まじりに言う。

「あの狐を山奥に引っ越させたなんて、千歳さん、すご過ぎます。その行動力を、ぼくも見習いたいです」

 河童が目をキラキラさせて、千歳を見ている。

「まぁとにかく、千歳さんが無事でよかったのう」

 杖をついた貧乏神は、にこやかにうなずく。

「みなさん、勝手なことをして、申し訳ございませんでした」
「まぁ、いいよ。千歳は、ちゃんと仕事してる」

 猫又が言うと、わらしも口を出した。

「そうそう。そこで寝てる二代目より、ずっとちゃんとしてる」

 見ると、奥の事務机に突っ伏して、凌真がグーグー眠っている。

 千歳ははっと思い出し、カウンターの上を見た。そこには契約書が置かれてある。おそるおそる開いてみると、中には『九尾狐』のサインが書かれてあった。