「それで私を雇ってくださるんですか?」
「ああ。給料は手取り二十万でどうだ? ボーナスもつける」

 千歳はもう一度唾を飲んだ。いままでの会社より給料が良い。

「そ、その上、部屋も貸してくださると?」
「202号室を貸してやるよ。ちなみに俺は201に住んでる。あとは三階の二部屋が入居中で、四階と五階の計四部屋が空き部屋だ」
「じゃあその四部屋を、なんとか埋めればいいんですね」

 千歳の前で凌真がうなずく。
 不動産店の仕事はこの前までやっていたから、なんとなくはわかる。しかしタダで貸してくれる部屋というのは、どんな部屋なのだろう。怪しくないだろうか。

「あの……その202号室を……見せてもらってもいいですか?」

 すると凌真が顔をしかめた。

「べつに変な部屋じゃないぞ? 見た目はちょっと古いが、広々2DKでバストイレ別。日当たり良好、エアコン完備。しかも家具家電付きだから今すぐ住める。周りは閑静な住宅街で、スーパーやコンビニまで徒歩五分。それになんといっても、職場まで0分!」
「だったらお家賃払います。あの、お安くしていただければ……」
「いや、いいんだよ。とりあえずこの契約書にサインして」

 凌真に契約書を渡された。賃貸借契約書だ。たしかにそこには家賃0円と書いてある。だけど本当に大丈夫だろうか。

「ほら、早く書けよ。そしたら部屋案内してやる」

 強引にペンを持たされ、急かされる。
 順序が逆だと思ったが、今夜寝る場所がないのは困る。しかも家賃がタダなんて……他では絶対ありえない。

「どんな部屋でもけっこうだって、さっきあんた言ったよな?」

 たしかに言った。言ったけど……
 凌真が鋭い目でにらんでくる。
 ビビった千歳は戸惑いながらも、その契約書にサインをしてしまった。