「朔太郎も……お前のようなやつだった」

 突然狐が口にした父親の名前に、凌真がはっと顔を上げる。

「仕事に夢中で、あやかしを疑うこともせず、自分を犠牲にしてまで相手に尽くそうとしていた」

 千歳が凌真の横顔を見る。凌真はぎゅっと唇を噛みしめている。

「バカ正直すぎて、見ているだけで腹が立つわ」
「そうだな」

 狐の声に凌真がつぶやく。

「俺もあの親父には腹が立つ」
「凌真さん……」
「でもそれが親父だからしょうがない。今ごろ狐に騙されたことに気づいて、お袋に謝ってるだろうよ」

 狐がまた「ふんっ」と鼻をならす。

「だけど俺は親父みたいにならないからな。お前みたいなクソ狐に、絶対弱みなんかみせねぇ」
「それはどうかな? お前の弱みはもうわかっている」
「は? なんだよ、それ!」

 狐につかみかかろうとする凌真を、千歳が止めた。