「次はこっちです」

 千歳がまた走り出す。

「おいっ、待てって」

 凌真が息を切らしながら追いかけてくる。あきらかに疲れたような態度で。
 そういえば千歳も、こんなふうに自然の中を走り回るのは久しぶりだ。だけど清々しい空気を吸い込むと、心が晴れて体も軽くなってくる。

「凌真さん、しっかりしてください! 狐さん、こっちです」

 広々とした高台に立ち、千歳は手招きをした。凌真がうんざりした顔で、ついてくるのが見える。

「ここからながめる景色はサイコーですよ」

 狐が千歳の隣に立った。少し遅れて凌真も追いつく。ぜいぜいと息を吐きながら。

 目の前に広がるのは、のどかな田舎の風景。緑の大地が広がり、民家は祖母の住んでいた家がポツンとあるだけ。
 上を見上げれば、どこまでも青い空が広がっている。

「ちょっと寂しいかもしれませんが、そういうときは私を呼んでください。いつでも来ますから」
「ふっ、そんなにわたしに食われたいか?」

 千歳はくすっと笑って答える。

「狐さんは食べたりしません。私のことを」
「すごい自信だな。愚かな人間め」

 バカにしたようにそう言うと、狐は遠くをながめ目を細めた。金色の毛並みがそよそよと、風に揺れている。