「ここです! すごく綺麗でしょう?」

 千歳はついてきた狐と凌真に、振り返って言った。
 森の中にゆるい斜面が現れ、その下を小さな川が流れている。木漏れ日を浴びた流れは、ところどころキラキラと輝いていた。

 千歳はゆっくりと斜面を降り、流れる水に手を浸してみる。ひやっとした冷たさは、蛇口から出てくる水道の水とはあきらかに違う。
 ここ、河童さんにも紹介してあげたいなぁ……千歳は心の中で河童のことを思い出す。

 狐が沢に降り、川の水を飲んだ。そして顔を上げてつぶやく。

「……不味くはないな」
「よかった」

 ほっとした千歳は思わず笑顔になる。そして森の奥を指さして言う。

「次はこっちです。今の季節だったら、咲いているはず」

 千歳はまた森の中を駆け出した。なんだか子どもの頃に戻ったみたいで、うきうきしてくる。

 うっそうとした森の中を抜けると、目の前に野原が開けた。

「見てください! 私のお気に入りの場所なんです」

 一面緑の草原の中に、白い小さな花が咲いている。そこはシロツメクサの花畑だった。
 千歳はよくここで、四葉のクローバーを探したり、シロツメクサの花冠を作ったりして遊んだのだ。懐かしい思い出が次々とよみがえってくる。

「ふん。お前のお気に入りの場所など聞いていない」

 千歳の後ろに立った狐が言う。

「でもきっと狐さんも気に入ると思います」

 千歳はそう言って狐に笑いかける。狐がまた「ふんっ」と鼻をならす。

 あとはとっておきのあの場所だ。