「狐の家を作ってあげたいんです」
「は?」
「狐の家です。町に住んでた狐なら、やっぱり家は必要だと思って。あの河童さんだって、川に住んでる田舎の家族のこと、ホームレスみたいで嫌だって言ってたし」
「はぁ……」
「凌真さんが素敵な家を設計してあげれば、あの狐だって人間を好きになって悪さはしなくなる……」

 明るい顔でそこまで言った千歳は、凌真の渋い顔を見て言葉を切った。

「ごめんなさい、調子に乗りました。やっぱり嫌ですよね」
「ああ、冗談じゃないって思うね」

 当たり前だ。自分の父親が、あの狐にひどい目に遭わされたのだから。
 恨むなとは言っても、自分が凌真の立場だったら、冷静でいられるかわからない。

「でもあの狐からじゃなく、地主からの発注だったら考えてやってもいい」
「え……」
「ただし金はとるぞ。たっぷりな」

 凌真が立ち上がって、むすっとしたまま公園の出口に向かって歩き出す。その向こうには、小さな不動産店が見える。

「あっ、待ってくださいっ、凌真さん!」

 千歳もあわてて立ち上がると、明るい朝の日差しの中、凌真のあとを追いかけた。