「お前のばあさんの田舎って、どんなところなんだよ」

 千歳の表情が明るくなる。そしてポケットの中からスマホを取り出し、以前撮った写真を凌真に見せる。

「ここです。すっごい田舎なんですけど、家の裏に人が誰も足を踏み入れない小さな山があるんです。春になるとたくさんの花が咲くし、夏は緑に覆われるし、秋は紅葉、冬は雪で真っ白に染まります。あの狐、景色の良い部屋に住みたいって言ってたから、ぴったりだと思うんです。それでもし一人ぼっちが寂しくなったら、私が時々遊びに行きます。私これでも子どもの頃は、祖母の家にいくたび裏山を駆け回っていて……」
「ああ、わかった、わかった、もういい。そこはうちの管理じゃないから、紹介でも案内でも勝手にやってくれ」
「はい。勝手にやります。今、山の所有者は私になっているので」
「は? お前の山なのか?」

 凌真がもう一度スマホの画面を見下ろし、目をぱちぱちさせた。

「祖母の山を私が受け継いだんです。母はいらないって放棄したんで。まぁ、売ってもお金にはならないような、何にもない山なんですけど」

 遠い記憶がよみがえる。母には抱きしめてもらえなかったが、祖母にはやさしくしてもらえた憶えがある。いまはもう、祖母はこの世にいないけれど。

「お前、すげぇな。山持ってるって……」

 あきれたようにつぶやいた凌真の前で、千歳が続ける。

「あ、それからもうひとつ」
「まだあるのかよ」
「凌真さんにお願いしたいことがあるんです。でもこれは無理に引き受けなくてもけっこうです。やっぱり凌真さんにとって、あの狐は許せない存在だと思うから」

 首をかしげた凌真が「なに?」と聞く。