「千歳! おいっ、千歳! しっかりしろ!」

 薄明りの中で目を開くと、公園の地面に倒れた上半身を、凌真に抱き起されていた。

「凌真さん……?」

 その名前をつぶやくと、凌真は安心したように表情をゆるめ、長く息を吐いた。千歳は急に恥ずかしくなり、さりげなく凌真から体を離す。

「あ、あの狐は?」
「消えたよ」
「消えた?」
「夜が明けたから」

 見ると公園は、ぼんやりと明るくなり始めている。

「でもまだ真夜中じゃ……私そんなに長く気を失ってました?」
「いや、貧乏神のじいさんが時間を早めて朝にしたんだ。その途端、あやかしたちがみんな消えた。たぶん家に戻ったんだと思う」
「そんなことが……」

 つぶやく千歳のことを、地面に座ったままの凌真がにらみつける。

「お前な、いい加減にしろよ? あの狐は人間を殺せるほどの、恐ろしいあやかしなんだぞ? そんなやつの前に一人で向かっていくなんて、正気じゃない」
「ごめんなさい、でも……」
「でもじゃねぇんだよ! 死んだらどうするんだ!」

 千歳はうつむいて、もう一度言う。

「……ごめんなさい」

 朝の日差しが、公園を囲んでいる桜の木を明るく照らす。本当に朝が来たのだ。
 千歳は自分の手足を確認した。どこも怪我などしていないようだ。わらしや猫又たちも、無事だろうか。