「狐さん。私はあなたのものにはならないけれど、あなたの味方にはなれる。あなたを一人ぼっちにはさせない。だからもう一度考え直して」

 狐が千歳をにらみつけている。千歳は震える足を一歩踏み出す。

「千歳! 近寄っちゃだめ!」

 後ろから雪女が叫んだ。だけど千歳はさらに足を踏み出す。そして歯をむき出している狐の前にまっすぐ立った。

「約束します。私があなたの、安心して暮らせる住処を探します」

 千歳は両手を開いて、狐の体を抱きしめた。ふんわりとした毛並みが、千歳の体にやさしく触れる。

「かみ殺されたいのか? お前は……」

 耳元で狐のうなるような声が聞こえた。千歳は狐の毛に顔をすり寄せたまま、首を横に振る。

「愚かな人間め」

 たしかに自分は愚かかもしれない。甘いかもしれない。力不足かもしれない。
 それでも千歳は、自分と同じように見えるこの狐を、どうしても放っておけなかったのだ。

 狐の体に抱きついたまま、千歳は静かに目を閉じる。狐の尻尾が妖しく輝き、大きくうねり巻きついてくる。

 怖がらないで――

 千歳は心の中で必死に祈った。九本の尻尾に巻きつけられた千歳の体が、徐々に締め付けられていく。

 私があなたのおうちを、探してあげるから――

 遠ざかる意識の中、千歳の名前を呼ぶ凌真の声が、かすかに耳に聞こえた。