「この化け猫めっ!」

 猫又が狐の尻尾で地面に叩きつけられた。

「猫又!」

 ぐったりとした猫又をわらしが抱き上げる。

「お前たちのような弱いあやかしに何ができる。さっさと千歳をよこすんだ」
「いやだ! 朔太郎にひどいことをした悪狐め! あんたにちとせは渡さない!」

 片手で猫又を抱いたわらしが、片腕を思いっきり広げ、千歳の前に立ちはだかる。

「わらしちゃん……」
「ふん! 子どもはどいていろ!」

 狐がもう一度尻尾を振り、わらしの小さな体を吹き飛ばす。

「わらしちゃん!」

 わらしと猫又は、公園の隅にごろんと転がった。

「さぁ、こっちに来るんだ。千歳」

 狐が千歳に手招きをする。千歳は唇をぎゅっと噛みしめ、首を横に振る。そんな千歳の手を、凌真が握りしめた。

「絶対行くなよ」
「行きません」

 千歳は凌真の手を握り返す。

「凌真さんも絶対行っちゃダメです」
「行くわけねぇだろ。俺はまだ俺でいたい」
「私もです」

 私も――自分を見失いたくない。

「千歳さん! 下がっていてください!」

 その声と同時に、千歳の前に河童が現れた。そしてぴゅっと水を吐き、狐の顔に吹きかける。

「何をする!」

 よろけた狐が濡れた目をこすっている。

「あやつは野狐じゃな」
「野狐?」

 いつの間にか現れたのは河童だけではなかった。千歳と凌真の前に、貧乏神も立っている。

「野良の狐じゃ。神になれず人間から邪魔にされ、居場所をなくし人間を憎み始めた。ここにいてはならない狐じゃ」
「ここにいてはならない……」

 千歳はつぶやいた。
 水で目つぶしされた狐は、太い尻尾を振り回し、河童の体を吹き飛ばした。

「ああっ、河童さん!」

 河童の体が宙に浮き、座敷わらしたちと同じように地面に叩きつけられる。

「雑魚が! 邪魔をするな!」

 狐が毛を逆立たせ、そう言った。怒りのせいか、目は真っ赤に染まっている。