「何してるんだよ!」

 その時、千歳の耳に聞き慣れた声が聞こえた。凌真の声だった。

「そいつから離れろ!」

 ぐいっと腕をつかまれた。半分落ちかけた体が、強引に引っ張り上げられる。
 どうしてそんなことをするのだろう。千歳はその手がすごく不快に感じた。

「離してっ」

 つかまれた手を振り払い、千歳はガマの胸に駆け寄ろうとする。

「千歳っ、行くな!」

 もう一度腕をつかまれ、千歳は叫ぶ。

「離してってば!」
「離さない! 俺はもう後悔したくないから!」

 千歳は目を見開き、自分の腕をつかんでいる凌真の顔を見た。

「もう親父の時みたいな後悔は、絶対したくない。お前をあいつに連れて行かせない」

 凌真は手に力を込めると、千歳の腕を引っ張りガマから遠ざけた。ガマはそれを見て、ふっと口元だけで笑う。

「あなたは凌真くんですね? 朔太郎の息子の」
「お前は狐だろ? 親父を騙して狂わせた」

 ガマが声を立てて笑うと、突然強い風が巻き起こった。公園の木の葉が一斉に落ち、くるくると宙を舞う。そして次の瞬間、ガマは美しい女性の姿に変わっていた。

「そうそう。朔太郎と出会った時、わたしはこんな姿でしたね」

 凌真が千歳の腕を握りしめたまま、ガマの顔をにらみつける。千歳はただ呆然と、そんな二人の姿を見つめた。