「やっぱりけっこうです! 泊めていただいた上に、ずうずうしいお願いをして、申し訳ございませんでした!」

 千歳はそう言うと、足早にガラス戸に向かった。
 一刻も早くこの店を出よう。いい加減にしろと怒鳴られそうだ。

「失礼いたしました!」

 もう一度頭を下げ、ガラス戸に手をかけた時、千歳の背中に声がかかった。

「ちょっと待て」

 その低い声に、千歳は背中を震わせる。椅子から立ち上がる音と、こっちに近づいてくる男の足音が聞こえる。
 まずい。殴られるのかも……

「部屋、紹介してやるよ。ついでに仕事も」
「え?」

 おそるおそる振り返った千歳の前で、男が言った。

「あんた、不動産屋で働いてたんだろ? だったらうちの店で働かないか? 部屋はこの上、タダで貸してやる」

 男の指が天井を指し、千歳はぽかんと口を開けた。