「あやしいぞ」

 その時千歳の耳に、聞いたことのない声が響いた。

「そいつ、時間を狂わせやがったな?」
「え?」

 驚いた千歳がきょろきょろと周りを見回す。

「おいらだ」
「おいら?」

 声の方向を見て、千歳はぎょっとした。猫又がじっと千歳を見て「おいら」と口を開いたからだ。

「ね、猫又さんっ、しゃべれたんですか?」
「猫又はしゃべれるよ。千歳の前では気取って猫のふりしてただけだよ」

 座敷わらしが楽しそうに言う。

「そ、そうだったんですか?」
「そんなことより、その大ガマというやつが気になるな」

 猫又がカウンターの上にどっしりと座ったまま、千歳に向かって言う。

「おいらたちはいつもどおりの時間にここに来た。それなのに千歳の時間は少し早まっていた。きっとそいつが、千歳をおいらたちと引き離すため、時間を操作したんだ」
「そんなことできるのか?」

 契約書を持ったまま凌真が言う。凌真にはもう、猫又も座敷わらしも見えるようだ。

「できるあやかしもいる。それよりどうしてそんなことをしたのか。そいつの狙いは千歳だったのか」
「ガマさんはあやしくなんかありません。少しかわいそうな、やさしいあやかしです」

 猫又と座敷わらし、そして凌真が、一斉に千歳を見る。千歳はびくっと肩を震わせる。