「ど、どうでしょう? 気に入っていただけました? 実は私もこのマンションに住んでいるんですが、静かな環境で落ち着いて暮らせますよ」
「千歳さんもこのマンションに?」
「ええ……でももしかしたら、引っ越すかもしれないんですが」
「どうしてですか? 暮らしやすい環境だって、今おっしゃったのに」
「あ、いえっ、このマンションは本当におすすめですよ。私もずっと暮らしたいと思っているんですが……でも……」

 千歳は戸惑った。どうして初めて会ったお客に、こんな個人的な話をしてしまっているのだろう。

「迷っているんですね?」

 ガマの声に、千歳は自然とうなずいた。

「はい……自分でもどうしたらいいのかわからなくて……」
「だったら……」

 千歳の目の前に立ったガマが、こう言った。

「ここにいてください。千歳さんと同じマンションで暮らせるのなら、ぼくもこの部屋を契約させていただきます」
「え……」
「とても気に入りました。千歳さんのことが」

 顔が燃えるように熱くなった。どうしたらよいのかわからなくなり、ただおろおろしてしまう。