「こちらのお部屋になります」

 ドアを開けて照明を照らす。通常の内見と違い、あやかし物件の内見は真夜中だ。あまり日当たりの良さは関係なく、照明の灯りが重要となる。

「うん。なかなか広い部屋ですね」

 ガマが部屋の中を見回しながら言う。雪女の部屋のような1LDKにはなっていないが、ひとりで暮らすには十分の広さだ。

「目の前は公園になっております。夜は暗くてよく見えないんですが、春には桜がとても綺麗な公園なんですよ」

 千歳はカーテンと窓を開く。すうっと夜風が部屋に吹き込み、千歳の髪が揺れた。

「ああ、たしかに。これは眺めが良さそうですね」

 気づくと千歳のすぐ隣に、ガマが立っていた。少し動けば体が触れそうなくらい近くに。
 千歳は心臓の動きが速まるのを感じていたが、平静を装いながら、ガマの横顔を見上げた。

 さらさらとした明るい髪。長いまつ毛、高い鼻。少し目を細めたやさしそうな表情。
 こういう人こそ、真のイケメンというのだろう。凌真のことを「イケメンかも」と思ってしまった自分が情けない。まぁ悪態をつかなければ、凌真だって悪くはないのだろうけど。

「千歳さん?」

 耳元に聞こえたやわらかな声に、千歳は我に返った。しょうもないことを考えていた自分が恥ずかしい。

「どうかしました? 顔が赤いですよ?」
「い、いえっ、べつに……」
「熱でもあるんじゃないですか?」

 突然ガマの手が、千歳の額に触れた。千歳はびくっと肩を震わせ、あわてて後ずさりをする。

「ほ、ほんとに大丈夫ですからっ」

 それでもガマが心配そうに見つめるので、千歳は窓を閉め、別の部屋へ逃げるように移動した。