「もしかして警戒していますか? ぼくのこと」

 男はそう言うと、カウンターの向こうからそっと手を差し出した。

「ひっ」

 小さく声を上げた千歳の頬を、男の手がそっとなでる。するとなぜか心がふわふわして、気分がよくなってきた。
 頬に触れた男の手はとてもあたたかく、人間以外のものとは思えない。

「みんなぼくのことを怖がるんです。ぼくの姿はひどく醜いから」
「え……」

 千歳は男の顔を見る。どこが醜いのだろう。こんなに綺麗な顔をしているのに。
 男は少し寂しそうに微笑むと、千歳の頬から手を離した。

「いまは人間の姿に化けています。だけどぼくの正体は大ガマなんです」
「大ガマ?」
「ガマガエルの妖怪ですよ。ひどく醜い。きっとあなたもぼくの本当の姿を見たら、逃げ出すでしょうね」
「そんなこと……」
「見せてあげましょうか?」

 千歳はびくっと体を震わせた。男がそんな千歳の前でまた笑う。

「やっぱり怖いんでしょう?」
「いえ……大丈夫です」
「無理しなくてもいいですよ。ぼくなんて、誰からも好かれない。誰からも必要とされていないんです」

 その言葉に、千歳の心が動いた。

「そんなことないです。『ぼくなんて』って言わないでください。必ずあなたを必要としている人が、いるはずです」

 千歳もそうだった。いつも自分に自信がなくて、誰からも必要とされていないと思っていた。
 でもこの店でいろいろなことを経験して、少しずつだけど自信が持てるようになってきたのだ。