その夜、いつものように店に行くと、凌真の姿がなかった。
「まさかもうこのお店を辞めるつもり?」
けれど店は普段通りに開いている。どうしたらよいのかわからずきょろきょろしていると、ガラスの引き戸がカラリと開いた。
「こんばんは」
「あ、いらっしゃいませ」
千歳は反射的にそう言って振り向いた。
「こちらのお店……営業中ですよね?」
「あ、はい」
千歳の前でほっとしたように微笑んだのは、千歳より少し年上に見える、若い男性だった。
髪は金髪に近い明るい色で、中性的な美しい顔立ちをしている。襟のついた白シャツに、ベージュのチノパンをはき、ナチュラルだがとても上品な感じだ。
「あの、でもこのお店は……」
「あやかし専門の不動産屋さんでしょう?」
男がそう言って、にこっと微笑む。どう見ても人間だが、もしかしてこの人もあやかしなのだろうか。
その時千歳ははっとした。人間に化けるという狐の話を思い出したからだ。
千歳は男から視線をそらし、店の中を見回した。しかし今夜に限って猫又も座敷わらしも姿が見えない。今、この店には、頼れるものが誰もいないのだ。
千歳はごくんと唾を飲み込む。
まず、目の前の男が人間なのか、あやかしなのか、確認しなければいけない。いや、もし悪いあやかしだったら、嘘をついて正体を隠すかも。だったらこの目で見極めるしかない。
体を硬くした千歳の前で、男がふっと口元をゆるめる。
「まさかもうこのお店を辞めるつもり?」
けれど店は普段通りに開いている。どうしたらよいのかわからずきょろきょろしていると、ガラスの引き戸がカラリと開いた。
「こんばんは」
「あ、いらっしゃいませ」
千歳は反射的にそう言って振り向いた。
「こちらのお店……営業中ですよね?」
「あ、はい」
千歳の前でほっとしたように微笑んだのは、千歳より少し年上に見える、若い男性だった。
髪は金髪に近い明るい色で、中性的な美しい顔立ちをしている。襟のついた白シャツに、ベージュのチノパンをはき、ナチュラルだがとても上品な感じだ。
「あの、でもこのお店は……」
「あやかし専門の不動産屋さんでしょう?」
男がそう言って、にこっと微笑む。どう見ても人間だが、もしかしてこの人もあやかしなのだろうか。
その時千歳ははっとした。人間に化けるという狐の話を思い出したからだ。
千歳は男から視線をそらし、店の中を見回した。しかし今夜に限って猫又も座敷わらしも姿が見えない。今、この店には、頼れるものが誰もいないのだ。
千歳はごくんと唾を飲み込む。
まず、目の前の男が人間なのか、あやかしなのか、確認しなければいけない。いや、もし悪いあやかしだったら、嘘をついて正体を隠すかも。だったらこの目で見極めるしかない。
体を硬くした千歳の前で、男がふっと口元をゆるめる。



