ベルベットの騎士

「ああ、判った判った。さっさと立てよ」

若い検察官補は観衆に大袈裟に肩をすくめてみせた。すると案の定、法廷内に明るい笑い声が弾け、貴族も平民も大喜びした。
「おいコラ、いい加減手間取らせるなよ。演技過剰なんだよ、くさい道化芝居しやがって」
男は、フィナンの右腕を掴むと強引に立たせて通路を引きずって行く。だが痛みと屈辱に歯を食いしばりながらも、彼女は胸騒ぎがしてならなかった。
「ウィル様……どこですか……?」
なぜなら、被告人であるはずのウィルの姿が法廷のどこにも見えないからだった。