ベルベットの騎士

「ここまで来れば……きっと……大丈夫……」
弾む息を整えながら、フィナンはそっと鳥籠を地面に置いた。
「後で、きっと迎えに来るからね。それまで森から出てはダメよ。悪い人達が捕まえに来るからね。館にも戻って来てはダメよ。いい?」

鳥籠の戸を開けながら彼女はフエゴに言い聞かせた。彼はキキッと短く鳴くと、ポーンと勢いよく鳥籠から飛び出した。
「さあ、私はまた館に戻らないと……。ちゃんと餌を見つけて元気にしているのよ、フエゴ」
フィナンシェは最後にフエゴの背中を優しく撫でるとゆっくり立ち上がる。そして名残惜しそうに黒い鳥をしばらく見つめると、疲れた足を引きずって来た道を戻って行った。
「ごめんよ、フィナン……」
その彼女の後ろ姿にフエゴが小さく呟いた事を、フィナンシェは知らなかった。